BOSS事件

大阪地裁昭和62年8月26日判決 ノベルティと商標法上の商品
昭和61年(ワ)第7518号:損害賠償請求事件

主 文

原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事 実

第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金一二七六万六三三一円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言二請求の趣旨に対する答弁主文同旨第二当事者の主張一請求原因

1 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
登録番号 第六九五八六五号
出願日  昭和三九年三月二八日
公告日  昭和四〇年八月五日
登録日  昭和四一年一月二二日
更新登録日昭和六一年三月一三日
指定商品 第一七 類被服、布製身回品、寝具類登録商標の構成別添商標公報のとおり
2 被告は、本件商標と同一の標章を附したTシヤツ、トレーナー、ジヤンパー等の衣類を訴外ジヤツクマン株式会社に製造させ、被告の取引先を通じて多数の消費者に販売し、又は無償で引渡してきた。右Tシヤツ等は商標法にいうところの「商品」であり、しかも本件商標の指定商品に属するから、被告の右行為は原告の本件商標権を侵害する。
3 原告は、本件商標を使用して衣類の製造、販売を業としていたが、被告の本件商標権侵害行為により、原告の主力取引先等から本件商標を附した商品についての出所の誤認混同を生じることを理由に取引の停止を通知され、主力取引先への販売が不能となつた。被告の本件商標権侵害行為により、原告は、昭和五九年五月二〇日から同六一年八月二〇日までの間に売上利益の減少額一二七六万六三三一円の損害を被つた。
4 よつて、原告は被告に対し、本件商標権侵害に基づく損害金一二七六万六三三一円の支払を求める。
二請求原因に対する認否
1請求原因1の事実は認める。
2同2の事実のうち、被告が訴外ジヤツクマン株式会社にTシヤツ、トレーナー、ジヤンパー等を製造させ、これらを取引先を通じて消費者に無償で譲渡したことがあることは認めるが、その余は否認する。
3同3の事実のうち、原告が本件商標を使用して衣類の製造、販売を業としてきたことは不知、その余は否認する。三被告の主張1被告は、楽器等の製造販売を業とする会社であるが、その親会社である訴外ローランド株式会社が指定商品第一一類、第二四類につき「ボス」「BOSS」の登録商標の商標権を有しており、被告は右ローランド株式会社から右商標の使用の許諾を受けている。
2被告は、その製造する楽器類の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として、前記BOSSマークを附したTシヤツ、トレーナー等を製造させ、これを楽器等の購入者に無料で配付している。配付衣料は、Tシヤツ(一〇〇〇円程度)、トレーナー(二〇〇〇円程度)及びジヤンパー(三〇〇〇円ないし四〇〇〇円程度)であり、具体的な配付方法は次のとおりである。(1)被告製造の楽器に愛用者カードが付けられており、右カードを被告に返送すると、購入楽器の機種によりポイント券が一枚ないし三枚購入者に送付されることになつており、四枚のポイント券を集めればTシヤツ、五枚のポイント券を集めればトレーナー、六枚のポイント券を集めればジヤンパー各一枚とそれぞれ交換できることになつている(ポイント券一枚に相当する機種の販売価額は一万円ないし二万円である。)。
(2)被告製造の楽器DEー二〇〇(デジタル・デイレイ)一台(価額五万九八〇〇円)の購入者に対し、その全員にTシヤツ一枚をプレゼントする。
(3)被告製造の楽器マイクロ・ラツク・シリーズかコンパクトシリーズの購入者が愛用者カードを被告に返送すると、抽選で毎月五〇〇名の購入者にトレーナーをプレゼントする。3右のように宣伝広告及び販売促進用の物品に商標を附する場合には、商取引の目的物である「商品」は宣伝広告の対象となつている物品を指すものというべきであるから、被告の前記行為は楽器類にBOSSマークの商標を使用したものであつて、本件商標の指定商品である第一七類被服等に使用したものではない。また、被告は、前記の方法でBOSSマーク付きのTシヤツ等を被告製造の楽器類の購入者に無料配付しているのであるから、原告製造のTシヤツ等の商品との間で出所の誤認混同を生じる虞は全くない。したがつて、被告は原告の本件商標権を侵害していない。第三証拠(省略)
理由
一 請求原因1の事実(原告が本件商標権を有していること)は、当事者間に争いがない。
二 請求原因2のうち、被告が訴外ジヤツクマン株式会社にTシヤツ、トレーナー、ジヤンパー等を製造させ、これらを取引先を通じて消費者に無償で譲渡したことがあることは、当事者間に争いがない。右事実と成立に争いのない乙第二号証の一ないし三、第三、第四号証の各一、二、被告製品であることにつき争いのない検甲第一号証、証人【A】の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告は電子楽器等の製造、販売を業とする会社であるが、その製造、販売する電子楽器等に別紙商標目録記載の商標(以下「BOSS商標」という。)を使用しているところ、昭和五四年頃から電子楽器類の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として、Tシヤツ、トレーナー及びジヤンパーにBOSS商標を附したものを、被告の主張2(1)ないし(3)記載のような方法で被告製造の電子楽器の購入者に直接又は販売店を通じて無償で配付してきたこと、右Tシヤツ等は被告が訴外ジヤツクマン株式会社に発注して製造させるものであるが、その価額はTシヤツが一〇〇〇円、トレーナーが二〇〇〇円、ジヤンパーが三〇〇〇ないし四〇〇〇円程度であること、右Tシヤツ等にBOSS商標を附している態様は、Tシヤツ及びトレーナーについては胸部中央に大きくBOSS商標が表示され、襟タツグにも表示されており、ジヤンパーについては左胸部分及び背中中央部に表示されており、右のうちTシヤツについては、胸部に表示されたBOSS商標の下にこれより小さい文字で「forsoundinnovationonstage」と表示され、襟タツグのBOSS商標の下にもやはりこれより小さい文字で「asoundinnovation」「JAPAN」と二段に表示されていることが認められる。なお、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、訴外ローランド株式会社を出願人として、指定商品第一一類、電気通信機械器具、その他本類に属する商品並びに同第二四類、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品及び附属品につき「BOSS」の商標及び大きい「●」のマークの下に「BOSS」の横書きの文字を配して成る商標等が公告になつていることが認められ、右事実と弁論の全趣旨によれば、被告は右ローランド株式会社からBOSS商標の使用許諾を受けているものと推認される。ところで、成立に争いのない甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、昭和六〇年九月五日被告の楽器の販売店の一つであるフオーライフ梅田店において、原告の息子がBOSS商標付きのTシヤツ一枚を二〇〇〇円で買受けたことが認められるが、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第六号証及び証人【A】の証言によれば、右Tシヤツは、被告製の電子楽器のノベルテイとして同店が置かれていたが、客から是非譲つてくれと頼まれて例外的に有償で譲渡したものであることが認められるから(原告本人の供述中右認定に反する部分は措信しない。)、原告の息子がBOSS商標付きのTシヤツを有償で入手した事実は、被告によるTシヤツ等の配付方法についての前記認定を左右するものではない。他には前記認定を左右するに足りる証拠はない。そこで、右認定事実を前提として、被告がBOSS商標を附したTシヤツ等を電子楽器の購入者に配付している行為が本件商標権の侵害行為となるかどうかを考える。商標法上商標は商品の標識であるが(商標法二条一項参照)、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない(同法二条三項参照)。商標権者は登録商標を使用する権利を専有し、これを侵害する者に対し差止請求権及び損害賠償請求権を有するが、それは商品についてである(同法二五条参照)。したがつて、商標権者以外の者が正当な事由なくしてある物品に登録商標又は類似商標を使用している場合に、それが商標権の侵害行為となるか否かは、その物品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であるか否かに関わり、もしその物品が登録商標の指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎない場合には、商標権の侵害行為とはならない。そして、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。
これを本件についてみるに、被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附したTシヤツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付をしているにすぎず、右Tシヤツ等それ自体を取引の目的としているものではないことが明らかである。また、前記認定の配付方法にかんがみれば、右Tシヤツ等はこれを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない。そうだとすると、右Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。
三 よつて、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

関連:
趣味の会事件(東京地判昭和36・3・2下民集12巻3号410頁)
木馬座事件(横浜地川崎支判昭和63・4・28無体裁集20巻1号223頁)
中納言事件(大阪地判昭和61・12・25無体裁集18巻3号599頁)
後楽事件(広島高岡山支判昭和61・6・18判不競2502ノ330頁)

参考文献:別冊ジュリストNo.188 2007/11 商標・意匠・不正競争判例百選

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